高階良子のデビュー作について



   デビュー年の疑問 
 高階良子のデビュー作について、角川ホラー文庫「血まみれ観音」のプロフィールは「千葉県銚子市出身。1964年「リリー」(若木書房「ゆめ」二月号)でデビュー。」としている。これは講談社コミックスなかよしに掲載されている作者の素顔、「2月18日、みずがめ座生まれ。千葉県銚子市出身。昭和39年、「リリー」でデビュー。」を踏襲した記述であろう。
 『ゆめ』の発行元であった若木書房発行の『TEEN COMICS DELUXE』も、著者紹介で「千葉県銚子市出身。漫画研究グループ”新児童少女漫画界”に所属、漫画の基礎を学ぶ。昭和39年短編「リリー」を若木書房から発表して漫画界にデビュー。」としている。
 『日本漫画家名鑑500』では「漫画の同人会へ送った作品「リリー」が、そこから投稿作品として若木書房へ送られ、それが採用されて、「ゆめ」2月号に掲載され、デビューとなる。」と、デビューの年を明らかにしていない。
 当時の貸本は発行年月日が記載されていないものが多く、雑誌『ゆめ』も何年の発行か記されていない。このため昭和39年の発行と推定されたのであろう。

   デビュー作は「リリ」
 高階良子のデビュー作のタイトルであるが、これは「リリ」が正しい。リリという名の少女の物語なのだが、「リリー」の方が一般的なため、このように引用されて来たのだろうか。当時の貸本を目にする機会は少ないので、私も『ゆめ2月号』を入手するまで「リリー」だと思っていた。今回確認ができたので、高階良子のデビュー作は「リリ」とした。

   デビューは昭和40年2月号
 作品の発表年については、当時の若木書房の月刊誌の状況から、私は昭和40年の2月号と推定している。これは『ゆめ』『泉』『こけし』『こだま』などの若木書房の月刊誌の発行状況や、貸本に記された年月日や事故調査票の日付、予告の年月、他の作家の作品発表年等を組み合わせて推定したものである。この方法で高階良子さんの単行本の発行年月も推定している。
 「リリ」は41ページの中編で、殺人事件を目撃したマチ子と殺人犯の妹の幼いリリの物語である。なお、この『ゆめ2月号』には楳図かずおの「赤い服の少女」も掲載されている。

       


デビュー年の再検討
   ダイとカイさんの指摘
 「高階良子のデビュー作についてですが、あれはやはり39年でよいのではないでしょうか?当時2月号は前年の12月に発売されておりました。彼の年、発売されたばかりのゆめ2月号を手にしたのが12月の末であったことを、私は今でもはっきり覚えています。」
とのご指摘を、掲示板上でダイとカイさんからいただきました。当時の体験による、貴重なご指摘を感謝いたします。この機会にもう一度高階先生のデビュー年について、考えてみることにしました。

  『少女まんが家入門』(学習研究社、昭和57年12月20日発行)
 プロフィールには、デビュー作=「リリー」(昭和40年「ゆめ」2月号)とありますが、同ページの先生の回想の部分では「39年、若木書房の『ゆめ』でデビュー」となっています。このことから、先生が昭和39年をデビュー年と考えていたことは確かなようです。

   デビューは「昭和40年」を「昭和40年2月号」に訂正
 このことから、とりあえず上記デビュー年を、「昭和40年」から「昭和40年2月号」に改めました。しかし、まだ、『ゆめ』昭和40年2月号の発売が昭和39年であった、と言い切ることも出来ません。もう少し検討を続けたいと思います。
 検討の方向としては、@ 『ゆめ』の実際の発売日が何日であったか、A 当時の貸本雑誌も1ヶ月早い発売であったのか、B 年末進行で1月初旬発売予定の雑誌が12月末に発売になっていたのか。この3点くらいになると思います。

  デビュー年へのこだわり
 高階良子先生のデビュー作を読みたい。そんな思いを行動に移したのは、もう10年以上前になります。貸本といえば早稲田の現代マンガ図書館。バロン吉元さんの貸本時代の作品を探したことがあったので、さっそく行ってみました。当時は、当然「昭和39年の『ゆめ』2月号」に掲載と考えていました。
 ありました!幸運にも現代マンガ図書館には、昭和39年2月号の『ゆめ』が所蔵されていたのです。喜んで、さっそく借り出して読んでみました。ところが、「リリー」は掲載されていませんでした。なぜなのだろうか。この時から私の若木書房貸本雑誌の探求が始まりました。
 まず、何冊かの『ゆめ』、『こだま』、『泉』などを入手し、巻末の新刊案内を探して見ることにしました。この中で、昭和40年2月号の『ゆめ』に、高階作品の掲載があることを発見しました。さっそく現代マンガ図書館へ行き、昭和40年2月号の『ゆめ』を探しました。しかし、所蔵されていないとのこと。ここで、探求は行き詰まってしまいました。
 当面はこれまでの作業を続けることにして、若木書房発行の貸本雑誌や高階作品を探しました。それまではコレクションを貸本にまで広げるつもりはなかったので、ひまわりブックなども積極的に探してはいなかったのです。貸本雑誌の量が増えるにつれて、デビュー作の掲載は、『ゆめ』の昭和40年2月号ではないか、との思いも強まっていきました。
 そして、ついに中野まんだらけで『ゆめ』2月号を発見しました。切り抜きやら落書きがあって1万円でした。当時少女物の貸本はほとんどが1000円程度だったので、状態を考えると、あまりにも高いと感じましたが、楳図かずお作品の掲載があることを考慮するとやむを得ません。この機会を逃すと、次の機会はないかも知れません。高階さんのページに切り抜きがないことを確かめて購入しました。購入して正解でした。その後は、この号に一度も巡り会っておりませんので。

  もう一度『ゆめ』を見る
 これまで、当然のように昭和40年2月号の『ゆめ』という呼び方をしていますが、正確に言うとこれは少し違います。もう一度雑誌を見てみましょう。
 表紙の号数の表示は、大きく「2」とあり、「No.62」とも記されています。背表紙の表示も同様です。表紙は岸田はるみさん、とびらともくじは楳図かずおさんです。とびら・もくじには号数の表示はありません。奥付の表示は「ゆめ」第2号です。正確には、2月号ではなく、この奥付の表示に従って第2号とすべきなのかも知れません。
 『ゆめ』第2号を2月号とする根拠は、奥付の上に記されている若木の少女漫画シリーズの宣伝です。この月刊少女漫画シリーズに、「ゆめ 2月号 No.62」と表示されていることから、第2号は2月号を指すと考えています。しかし、昭和何年の発行かについては、まったく表記がありません。
 「ゆめ 2月号 No.62」の発行が昭和39年ではなく、40年であるという証明は、どうしたら出来るのか。このために「若木書房雑誌等の発行年月推定表」を考え、作成しました。
 つまり、私の明らかにしたかったのは、高階さんのデビュー作掲載が、昭和39年の『ゆめ2月号』ではなく、昭和40年の『ゆめ2月号』であるということでした。このことについては証明できたかと、考えています。


デビュー年を直しました
  デビュー年は昭和39年
 高階良子先生のデビュー年を「昭和39年」に改めました。調査結果により確定できたわけではなく、ダイとカイさんのご指摘を良く噛みしめた結果です。
「彼の年、発売されたばかりのゆめ2月号を手にしたのが12月の末であったことを、私は今でもはっきり覚えています。」
 このように言い切れる方は一人しかいないと思います! 大変失礼なことをしたと深く反省し、今回訂正をいたしました。(2003.1.1)